東レ経営研究所
特別顧問

佐々木常夫

1944年秋田市生まれ。1969年東大経済学部卒業、同年東レ入社。自閉症の長男とうつ病の妻を持ち、育児、家事、介護に追われる中で、破綻会社の再建や事業改革に従事。2001年、同期トップで取締役、2003年、東レ経営研究所社長、2010年、同社特別顧問に就任。現在は、内閣府の男女共同参画会議議員などの公職も務める。
著書は『ビッグツリー』(WAVE出版)など多数。2011年にビジネス書最優秀著者賞を受賞。

最短距離で最大の成果を生み出す リーダーの知恵

最短距離で最大の成果を生み出す リーダーの知恵

青木仁志
青木

今回は、家庭でさまざまな課題を抱えながら、破綻会社の再建や事業改革などに取り組まれ、同期トップで東レの取締役に就任。現在は、東レ経営研究所株式会社の特別顧問を務められている佐々木常夫氏をお迎えしました。定時に帰らなくてはならない状況で生み出された、最短距離で最大の成果を生み出すための考え方などを伺っていきます。まず、佐々木様のこれまでの歩みについてお聞かせください。

佐々木常夫氏

佐々木常夫氏
佐々木氏

私は、いわゆる平凡なサラリーマンで、1969年に入社した東レでずっとやってきました。40歳頃から、経営企画室の一員として社長の傍で仕事をしてきたので、経営とはどういうものか、それなりに理解できる立場にあったんです。2003年に東レ経営研究所の社長に就任し、2006年に出した『ビッグツリー』をきっかけに、講演、シンポジウム、大学の講義、取材などを通して、いろいろな組織や人を知るようになりました。現在は国の審議会議員を3つ務め、著書は6冊、累積部数もおかげさまで92万部となっています。

青木仁志
青木

すばらしいですね。佐々木様は組織人として、経営者として、また、父親として、多くの困難を乗り越えられてきたかと思いますが、どのような思いが支えとなっていたのでしょうか。

佐々木常夫氏
佐々木氏

まず、人の幸せや不幸は体重計や血圧計のようなもので測れるものではありませんし、置かれた環境の中で幸せか不幸かを決めるのは自分自身なんです。私は家族のことで苦労していた当時、何も起こらない日があると、今日は幸せだと実感していました。傍から見れば大変そうでも、誰でも当事者になれば頑張れるものです。私自身はそれほどシビアに不幸だと思っていたわけではありませんね。
また、家族のことで大変だった時に、私を支えてくれたのは仕事でした。仕事は頑張れば結果がついてきます。私は自己実現欲求が強いので、会社で面白い仕事ができれば、家に帰って今度は家族のために頑張ろうと思うことができていましたね。

青木仁志

青木仁志
青木

物の見方や考え方一つで、自分の精神状態も変わるということですね。佐々木様はワークライフバランスの実践者として有名ですが、限られた時間で成果を上げるために大切にされている考え方を教えていただけますか。

佐々木常夫氏
佐々木氏

一番大事なのは、“決意と覚悟”を持つことです。最短コースで結果を出す仕事をやろうと決意すれば、そのために全力を尽くし、いろいろな知恵を学びます。それを繰り返すうちに、スキルは身につきます。いくら本を読んでスキルを詰め込んでも、決意と覚悟がなければ、三日坊主で終わってしまいますからね。

青木仁志
青木

その通りですね。ちなみに、独身の若い時と、家庭を持った時では働き方が違うという説もありますが、年代と働き方は関係があるのでしょうか。

佐々木常夫氏

佐々木常夫氏
佐々木氏

年代と関係ありますね。先日、ある企業で行ったワークライフバランスの講演で、入社二年目の独身の会社員からアドバイスを求められた時、「死ぬほど働きなさい」と私は言いました。社会に出たばかりで、まだプロと呼べる域に達していないうちは、ワークライフバランスや仕事の適性のことよりも、与えられた仕事に全力を尽くしたほうがいい。最低でも5~10年はプロになるために頑張り、40代でしなやかに生きなさい、と。

私が人生の中で一番成長を実感したのが40代です。20~30代は成長角度が高いけれど、モノを知らず、経験もないので、回り道をしがちです。30代後半にロスのない仕事のやり方を覚え、40代には部下が持てます。できるだけ部下に仕事を任せ、自分は早く帰り、自己啓発、家族やコミュニティとの付き合い、本や映画などで教養を深めることに時間を使うんです。

青木仁志
青木

なるほど。年代によって働き方を変化させていくわけですね。今のお話は、経営者の方が聞いたらほっとする一言ですね。

佐々木常夫氏

ワークライフバランスとは働き方の多様性を受容すること

佐々木常夫氏
佐々木氏

ワークライフバランスとは、ダイバーシティの一つの範疇で、働き方の多様性を認めようということです。40~50代でも、期待される仕事があり、本人が働きたい、家族が認めている、部下にも迷惑をかけないという条件なら、仕事に没頭すればいい。
問題は、長時間労働をしている人間が管理職になると、部下にもそれを強要することにあるんです。定時に帰って自分の生活を充実させたい人、子育てが大変で早く帰りたい女性など、多様な働き方を認めながら、頑張りたいと思っている人には頑張ってもらう。そういう管理職や経営者でなければいけませんね。

青木仁志
青木

同感ですね。では、佐々木様が考える経営者として備えるべき要素は何でしょうか。

佐々木常夫氏

佐々木常夫氏
佐々木氏

個人でも会社でも、何かに貢献しようという志が重要だと思います。企業の目的は利益ではありません。利益は企業が生きていくための条件ですけれど、目的ではないのです。目的は、もっと広い意味で、世のため、人のためになることです。
当社の経営理念の最初に、「安全・防災・倫理はあらゆる経営課題に優先される」とあります。倫理とは、決して嘘をつかないことです。粉飾決算や食品偽装で倒産した例があるように、倫理にもとる行動をすれば、民間会社はつぶれるリスクがあります。逆に、製品を通じて世の中に貢献する、お客様の役に立つという気持ちがあれば、利益はついてくるんです。
個人も同じです。リーダーとは、人に会ったら挨拶する、嘘をつかないなど、幼稚園で教わったことをきちんとできる人だと私は考えているのですが、そういう社会人は意外に少ないものなんです。人のため、チームのため、会社のために一生懸命に頑張る人にはみんながついてきて、その結果、その人は幸せになれるんです。幸せな人生を送りたいと思うなら、周りの人のために貢献しなければリターンはありません。そして、貢献の領域を広げていくためにも、自分を成長させていくのです。

青木仁志
青木

なるほど。私がよく研修で用いるグラフがあるのですが、縦軸に「自己の成長」、横軸に「他者への貢献」をとり、右45度上にサクセスがあると表現しています。これは、成長した分だけ他の人に貢献できるようになるということを意味しています。経営者自らが学び続け成長し続けることが、企業の貢献の体積を大きくするのだ、と。それと全く同じですね。

佐々木常夫氏
佐々木氏

なるほど。縦軸と横軸というのは初めてですが、良い話を聞きました。

青木仁志
青木

私は人を育てる上で組織の文化が大事だと考えていますが、長い歴史の中で良い企業として評価され続けている東レの組織や文化は、どのようなものだったのでしょうか。

佐々木常夫氏
佐々木氏

企業の要は人材です。そして、人材を採用し育成するという精神がないと、社員は活性化しません。当社は、経営スクールを毎月1週間ずつ5か月間やったり、新入社員教育を充実させたり、課長教育を三島の研究所で3週間行ったりしています。「この会社は人を育てるためにいろいろと取り組んでくれている」。そんな風に感じることができれば、社員は自ずと期待に応えようという気持ちになってくれるものです。

佐々木常夫氏

経営者が志を持って動かない限り会社は変わらない

佐々木常夫氏
佐々木氏

私は東レで20を越える赤字の事業や会社を黒字にしてきましたが、赤字を黒字にすることほど 簡単なことはありません。よく「選択と集中で、3年赤字が続いたらやめるべきだ」と言う人がいます。東レの炭素繊維は13年間赤字で、欧米企業はすべて撤退しました。ところが今、東レの屋台骨を支える事業になっています。赤字続きでも、この素材は必ずモノになるという、経営者や技術者の執念の結果です。選択と集中を言い訳に、やることもやらずに辞めるのは良くないと思いますね。経営は生き物で、黒字にするセオリーはあっても、経営のセオリーはありません。強い会社がみんな同じような戦略をとっているわけではありません。稲森和夫さんは日本航空の再建でアメーバー経営を導入しましたが、これが機能しているのも、日本航空に合わせた運用を行っているから。600のセグメントに分けて、赤字か黒字かを判断し、赤字のところをやめていく。以前はどんぶり勘定だったので、手の打ちようがなかったのですが、現実を把握して問題を明らかにすれば、対策が打てるのです。経営者がやらなくてはならないのは、現実をきちんと把握し、自社に合った戦略を打つことです。ただ真似るだけでは、意味がないんです。

青木仁志
青木

それはポイントですね。少し話は変わりますが、私は長く人材教育に携わってきて、世の中の様々な問題の本質には、不満足な人間関係が引き起こす不幸感があると考えています。内発的な動機ではなく、批判する、文句を言う、罰を与えるなど苦痛を与えて人をコントロールすることにより、家庭、学校、職場で人間関係に葛藤が生じ、結果的にそれが人間関係やチームワークを壊すのです。管理者や指導的立場にある人がより良いマネジメントの技術を体得すれば、同じチームでももっとパフォーマンスを発揮できるのではないか、と考えていますが、日本各地で教育や講演をされている佐々木様は、その点についてどのようにお考えですか。

佐々木常夫氏
佐々木氏

私の担当するチームでは、私がいる間は残業がなくなっても、いなくなればあっという間に元に戻ります。後任者が私のやり方を踏襲しないからです。部下が私のやり方に賛同したとしても数は知れており、何千人に影響を及ぼすことはできません。会社を変えられるとすれば、トップが“決意と覚悟”をもって仕組みを変えていくしかありません。その意味では、今の日本の会社はほったらかし状態なのかもしれませんね。

青木仁志 × 佐々木常夫氏

青木仁志
青木

なるほど。ありがとうございます。それでは最後に、読者に向けてメッセージをいただいてもよろしいでしょうか。

佐々木常夫氏
佐々木氏

なぜ決意と覚悟を持たないかというと、幸せになろうという意欲が弱いからだと思うんです。自分は幸せになろう。 自分の人生だ。自分を高めていこう。そう思えば行動に移れる。みんな、もっと幸せになれるのだから、もっと頑張ればいい。私はかなりしんどい思いをしてきましたが、頑張った結果、家族もよみがえり、仕事でも成功し、本まで売れました。私は強烈に自己愛を持ち、幸せになりたいと思っていたから、人より多くのトライをしてきたわけです。その結果、幸せを得ることができました。私の家族にはとても強い絆があります。子供たちと一緒に旅行し、食事の時には会話がずっと途切れません。家族が大変な時に私が頑張ったから、家族もそれに応えてくれてるんだと思います。本当に幸せです。幸せは自分でつかみ取れる。だからこそ、自分の手で幸せをつかみなさい。そう、お伝えしたいですね。

青木仁志
青木

佐々木顧問の実体験からくるメッセージに心が熱くなりました。今後のご活躍を心よりお祈り申し上げます。本日はありがとうございました。

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