• 経済産業省 中小企業庁 長官

    角野然生氏

  • アチーブメント株式会社 顧問
    木俣佳丈氏
  •             アチーブメント株式会社 代表取締役会長 兼 社長
    青木仁志

中小企業の潜在力を引き出す、「伴走支援」の全国展開を目指す

角野然生 経済産業省 中小企業庁 長官 1988年、東京大学経済学部を卒業し、通商産業省へ入省。2013年に官房参事官(製造産業局担当)、2015年に内閣府原子力災害対策本部現地対策本部事務局長、2017年に福島相双復興推進機構専務理事兼事務局長等を歴任し、福島第一原子力発電所事故の被災事業者への経営支援などに務めた。2021年7月より中小企業庁長官に就任。※写真中央

日本企業の99.7%を占め、従業者の数でも約70%を占める中小企業。この国の津々浦々に、毛細血管のように広がる中小企業が活性化しなければ、日本経済に真の発展は望めない。復興庁統括官を経て中小企業庁長官に就任した角野然生氏は、東日本大震災の被災事業者への経営支援を、現場で力強く牽引してきた経験がある。そうした取り組みを通して得た知見をもとに、現在、中小企業をサポートするための新たな試みも始動させたという。そんな角野長官に、中小企業活性化に向けた官民の理想的な協力体制や、今後の中小企業支援のあり方などについて話を伺った。

体当たりの支援が生んだ理想のサポートスタイル

木俣佳丈
木俣

福島県の被災事業者への経営支援では、地域の事業者を対象に、大規模かつきめ細かい支援をされたと伺っています。実際にどのような支援を行われたのですか。


角野氏
角野氏

はい。今おっしゃっていただいたように、福島県の原発事故で被災された小規模事業者や中小企業を支援する活動を2015年から始めました。当初、官民合同のメンバー100名ほどでチームを組んで被災事業者の方々への訪問活動を開始しましたが、その後、コンサルティングができる人材を集めるため、復興支援に協力的な大企業や、地元の金融機関や中小企業支援機関などにも協力をお願いして人材を貸していただき、最終的に200名強のチームを編成して支援活動を行ってきました。震災当時、被災地域には家族経営の商店や工場、企業など、統計上8000もの小規模事業者、中小企業がありました。そうした方々が、原発事故によって故郷からの避難指示が出されたために北海道から沖縄まで全国に避難されている状況でした。お一人おひとり探し出し、二人一組で5000社以上を訪問して、ご要望ある事業者にコンサルティングを行いました。


青木仁志
青木

あの震災によって被災者の方々は想像を絶する苦労をされたことと思います。そうした人々を支援する角野さんたちのご苦労も、また並大抵ではなかったことでしょう。


角野氏
角野氏

震災時の状況を考えれば大いに理解できることですが、被災者の方々は国や電力会社に対して、当時、強烈な不信感をお持ちでした。やっとお会いできても、「何しに来たんだ!」「今さら何をしようというんだ!」と、お叱りを受けることもしばしばで、私たちの意向をお話ししても半信半疑。取り付く島がないという状態になることも多くありました。しかし2回、3回と何度も足を運ぶことで、少しずつ心を開いていただきました。「あなたはまた来てくれた。だから本当の気持ちを話す」と。そこからが私たちの仕事の本番でした。


木俣佳丈
木俣

コンサルティングのスタートラインに立つ以前のご苦労があったわけですね。また、そもそも商圏が壊れてしまったなかで事業を復興させていくというのは、本当に困難なことだったと思います。


角野氏
角野氏

おっしゃるとおりです。我々の活動もなかなかうまくいかず苦悩の日々が続きましたが、一つの支援活動が転機となりました。ある食品の販売業を営んでいる事業者様を支援していたときのことです。その企業は赤字続きの状況に加えて、経営者の方の精神的なダメージが大きく、先が見えないという状況に陥っていました。そのようななか、担当していたコンサルタントがあるときTシャツを着て現場に入り、従業員の方と一緒に商品を売り始めたんですね。矢も盾もたまらず起こした行動だったのですが、それを熱心に続けているうちに、現場の雰囲気が変わってきました。従業員の方から、「もっとこうする方が良いのではないか」「こんなポップを作れば売れるのでは」という前向きな意見が、どんどん出るようになったんです。すると従業員の変化に触発されて、経営者の気持ちが前向きになっていきました。自分もやる気を出さねばと。そこから様々なアドバイスをしていくうちに、経営者の方のモチベーションがだんだん高まっていき、いろいろなアイデアも出始め、半年後には黒字に変わりました。その事業者さんの事例が一つの転機となり、私たちの支援スタイルが明確になっていきました。


木俣佳丈
木俣

素晴らしい。コンサルティングのスタンスが、どのように変わったのだと思われますか。


角野氏
角野氏

支援される側の気持ちに「寄り添い」、信頼関係をつくることを、より重視するようになりました。それなしには、いかにコンサルティングの専門知識があっても成果は得られません。まずは気持ちに「寄り添い」、誠実に、逃げずに、「対話と傾聴」を繰り返す。そうすることでご本人の内から意欲が湧いてきたり、課題があぶり出されたり、打開策を見つけられるようになったりします。ときには想像を超えた潜在力が、発揮されることもありました。



青木仁志
青木

角野さんを始めとするメンバーの方々がいかに誠実に、福島の皆さんと向き合ってきたかということがわかります。まさに「誠に至る」、至誠の心を感じました。

「メニュー型支援」ではなく「伴走支援(寄り添いながら自走を促す)」

木俣佳丈
木俣

先ほどのお話を伺って改めて思いましたが、支援される側の「気づき」を、いかに引き出すかということが大事ですね。


角野氏
角野氏

はい。さらにいうと、気づいていただくためにどうするかということが大事だと考えています。事業者の方と信頼関係を築いたうえで話を伺っていると、いろいろな要望が出てきます。例えば、店舗を修繕するために補助金がほしいとか、従業員が集まらないのでサポートしてほしいなどなど。そのとき「こういう補助金があります」とか、「こういう支援制度がありますよ」というように、あたかもサービスメニューをお見せするような解決法をとりたくなるのですが、そこからより深く掘り下げてコンサルティングしないと、本質的な問題を見失うこともあります。対話と傾聴をさらに続けると、実は人手不足という問題の裏に家族間のトラブルがあり、それを解決する方が先決だったりすることもあるのです。信頼関係をベースとして寄り添うように伴走し、「本当の課題は何なのか」ということに気づいていただくために、「課題設定型」で対話と傾聴を繰り返すというスタイル。それを私たちは「伴走支援」と呼ぶようになりました。


青木仁志
青木

「メニュー型支援」よりも「伴走支援」というわけですね。いまのお話を伺い、これまでアチーブメント社がやってきたことをまさに言語化していただいたと感じました。私たちが近年注力している教育の分野でも、同じことがいえます。親が本質的なことを見極めないまま子どもに何かを与え過ぎると、甘えや依存心が芽生え、脆弱な子どもになるケースがありますね。そうではなく本人にしっかり考えてもらい、内から出てきた目標や目的をしっかり見据えたうえで、親が力添えすることが大切です。そうしてこそ、支援が意味を成すようになります。お話を伺い、我が意を得たりと感じました。


木俣佳丈
木俣

今の青木社長のお話に関連しますが、アチーブメント社は高校教育の現場に、研修ノウハウを導入するプロジェクトを進めてきました。メジャーリーガーの大谷翔平さんや菊池雄星さんの母校である花巻東高校様と組み、『立志 夢実現特別カリキュラム』という産学連携プロジェクトを2019年から推進しており、始動して今年で4年目になりました。そのプロジェクトでは同校と「オリジナル⼿帳」を共同開発し、⽣徒が自ら夢や志を育みながら、社会で活躍する⼈材へと成⻑できるようサポートしています。この試みは各種メディアでの報道もあって注目され、いまでは花巻東高校への進学にこの手帳があることを理由として挙げる生徒が、入学者の65%を超えました。



青木仁志
青木

『立志 夢実現特別カリキュラム』を立ち上げる以前、硬式野球部向けにチームビルディング研修も開催しており、その当時は大谷選手も在籍していて、同研修を受講されました。私たちの研修が、彼の人間形成に少しでも貢献できていたとすれば嬉しく思います。そのようなご縁もあって、同校野球部の佐々木洋監督とも親交があるのですが、私は彼を一流の教育者であると感じています。勝利至上主義にはならず、後々の人生を見据えた人間教育の場として部活動をとらえ、部員を指導しておられる。そうした環境から大谷選手や菊池選手が巣立ち、プロ野球選手としても、人間的にも高く評価されています。ですが佐々木さんは、自分が育てたのではないと言われます。大谷さんや菊池さんのなかにあったものを引き出しただけだと。そういう姿勢こそ、一流指導者の証ではないでしょうか。角野さんが語られた「伴走支援」の話を伺い、それを思い出しました。

官民の知見を集結した『伴走支援協議会』を設立


木俣佳丈
木俣

本日は福島での事例を中心にお話を伺いましたが、そうした活動を通して得た知見を、他でも活かされているとのことですね。

角野氏
角野氏

はい。福島での経験を活かして関係支援機関からなる『経営力再構築伴走支援推進協議会』を設立し、被災していない中小企業への支援もスタートさせました。同協議会には日本商工会議所や全国商工会連合会、全国中小企業団体中央会、日本公認会計士協会、日本税理士連合会、中小企業診断士協会、全国の地域金融関係機関の方々などにお集まりいただき、知見の共有蓄積を図ることとしています。そうした方々と連携しながら全国で活動を展開し、この国の中小企業をもっと元気にしていきたいと考えています。大事なことは、それぞれが有する暗黙知を体系化し、それを蓄積して次の世代に伝えていくこと。それが我々行政の務めです。


青木仁志
青木

官民の総合力によって、中小企業をサポートしようというチーム編成に、角野さんの並々ならぬ意気込みを感じますね。大いに期待しています。私は最近『経営者は人生理念づくりからはじめなさい』という書籍を発刊しました。経営者向けに人生理念の重要性を伝えたいと思っています。経営のなかに人生があるのではなく、人生のなかに経営がある。より良い経営者になるために、人生の目的をしっかり見直そうという内容です。私がこれまでセミナーや書籍を通じて、経営者に様々なメッセージを発してきたのは、この国に貢献できる中小企業を一社でも多くつくりたいと思っているからです。中小企業庁様とはまさに同じ志であるということを、今回の鼎談で実感しました。近代日本経済の父といわれる渋沢栄一氏は、個人の私利私欲のためではなく、社会に必要とされる事業を起こすべきだと考え、生涯に500以上の企業を立ち上げられました。そのように志のある経営者を、いかに増やしていくかということ。それが今後の日本の課題ではないでしょうか。北川長官の時代に、私は中小企業庁様で2回講演させていただきました。お役に立てる機会があれば、ぜひ声をおかけください。この先の10年間は人生の集大成と考え、自分の経験と知見をより多くの人に伝えていきたいと思っています。


角野氏
角野氏

ありがとうございます。ぜひとも協力しながら、より良い日本社会のために取り組んでいけたら幸いです。


木俣佳丈
木俣

本日はありがとうございました。


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