アイ・ケイ・ケイ株式会社
代表取締役社長

金子和斗志

佐賀県伊万里市出身。1995年に同社を設立し、2000年佐賀県鳥栖市に、九州初となるゲストハウス型ウェディング施設を開業。2010年に大阪証券取引所JASDAQ市場、2012年に東京証券取引所市場第2部に上場。2013年に東京証券取引所市場第1部銘柄に指定。現在は全国13都市に15施設を展開し、海外進出も含めて更なる成長を目指している。著書に『サービスの精神はありがとうから生まれる』(コスモ教育出版)がある。

売上100億円企業に学ぶ 組織繁栄の秘訣

売上100億円企業に学ぶ組織繁栄の秘訣

青木仁志

青木仁志
青木

本日は、佐賀県伊万里市に本社を置き、ゲストハウス型婚礼施設「ララシャンス」を全国展開されているアイ・ケイ・ケイ株式会社の金子和斗志社長をお迎えしました。規模を拡大し、大企業へと発展させる中で、経営者として大切にされてきたことや人財活用に対する哲学などを伺っていきたいと思います。まずは、金子社長の経歴やウェディング事業を始めるようになったきっかけなどをお話し頂けますか。

金子和斗志氏
金子氏

私は商売人の2代目として生まれました。先代である父親は地元でスーパーマーケットを経営し、母親は乾物の卸問屋を営んでいました。2人が一生懸命働く後姿を見て育った私は、門前の小僧のように、自分もいずれ会社経営をする、と子どもの頃から思っていました。小学6年生の時の作文にも「スーパーマーケットのチェーン展開をしたい」と書いたほどです。
しかし、私が引き継ぐ前に先代はスーパー経営から手を引きました。当時、中核都市に本社を持つダイエーやジャスコ(現 イオン)が積極的に地方都市に展開しており、佐賀県にも全国チェーンの大手スーパーや百貨店が参入。そういう流れの中で、先代のやっていたビジネスは厳しい状況に置かれていたのです。例えば、人気商品だった「ネスカフェ」というコーヒーが百貨店の広告の目玉商品として載っていた時、なんと売出し価格がうちの仕入値よりも安かったのです。価格競争では勝ち目がありませんでした。父親は番頭さんにヒト・モノ・カネを全部譲り、新たにホテル事業を始めました。
当初は宿泊だけでしたが、ちょうどその頃、私が結婚式を挙げたこともあって、母親からウェディング事業をやってはどうか、という提案がありました。父親も私もそこに可能性を感じ、単純な発想ではありますが、ウェディング事業への参入を決めました。

青木仁志
青木

なるほど。そこには、親の想いを成就していこうという金子社長の想いがあるように感じられますね。

金子和斗志氏
金子氏

いえ、私はそんな孝行息子ではありません(笑)。親としては、後継ぎ息子に大学で勉強してから事業をやってほしいと思っていたでしょうが、私は親の言うことを聞かない、どら息子でした。幸い、父親のホテル事業を大きくすることはできましたが、母親にはまだ十分な親孝行ができていないと感じていますよ。

青木仁志
青木

親にとって、世のため、人のために役立つ人間になること以上の親孝行はないので、金子社長は十分に孝行されているのではないでしょうか。ところで、上場企業へと会社を育てていく中で、どのような経営観をお持ちだったのでしょうか。

人財育成はまず自己研鑽から

金子和斗志氏
金子氏

私の経営観は「誠実・信用・信頼」という理念に表れていると思っています。自分自身、家族、スタッフ、取引先、お客様、地域社会の方々、株主の皆様という、すべてのステークホルダーに対して「誠実・信用・信頼」を大切にしています。では、それをいかにして具現化するか。そこは、松下幸之助氏の言われている企業経営に成功するための3条件、すなわち、絶対条件「経営理念の確立」、必要条件「良い社風づくり」、付帯条件「戦略・戦術」をやっていかなくてはなりません。

青木仁志
青木

なるほど、それはまさに本質ですね。会社経営では、人財の採用や育成が重要課題となります。私自身も最初の10年は人財面で苦労をしました。

金子和斗志氏

金子和斗志氏
金子氏

それは私も同じです。なかなか良い人財が採れない時期がありました。ただ、「中小企業の器は社長の器だ」と言われる通りで、自分の器量に見合う人財しか集まらなかったのだと思います。ですから、中小企業は社長が「自分自身の育成」に取り組まなければ、事業の発展はありません。私は30半ば頃から自己流で勉強してきましたが、なんでもそうであるように、自己流とプロに習うのとでは、成長のスピードも仕上がりも大きく違います。プロからきちんと学び、それを自分独自のものにしたほうがいいですね。経営者自らがどれだけ悩みながらプロから学ぶか、勉強したことをどう実践に活かすかが大事になってきます。


青木仁志
青木

以前、会食の席などでも、他の中小企業の社長の言葉を聞いて、メモを取っておられる金子社長の姿が印象的でした。還暦を迎えられても、そうやって自分自身を高め、向上していこうという姿勢に、私は心から感銘を受けました。大企業の経営者の中には、中小・零細企業の経営者から学ぶことはないと考える方もいらっしゃいますが、金子社長は、出会う人はすべて師匠だと考えていらっしゃる。主婦の方からも吸収されていると聞きますが。

金子和斗志氏
金子氏

主婦の方たちにもそれぞれの人生があり、たくましく生きていらっしゃいます。苦労の仕方は人それぞれ違いますが、そうした苦労を乗り越えてきたところが素敵ですし、そこから学ぶことは数多くありますね。私自身もいろいろと逆境や失敗を経験してきましたが、いつも思ってきたのが「今、ここからが本番だ」ということです。大阪証券取引所に上場した時も、東京証券取引所の二部に上場した時も、一部に上場した時も「今、ここからが本番だ」と考えていました。

青木仁志
青木

素晴らしい言葉ですね。

金子和斗志氏
金子氏

ええ。今、生きているからこそ、いろいろな人・仕事・出来事と出会えるのです。

ピンチをチャンスに変え、繁栄に結び付ける

青木仁志
青木

これまで企業経営をされてきて、一番の壁となったことは何でしょうか。

金子和斗志氏
金子氏

一番を決めるのは難しいのですが、まず挙げられるのが、事業を始めたばかりの時のことです。昭和57年10月にホテルを開業し、ウェディング事業を開始したその翌年に、伊万里の小さな町に、投資規模がケタ違いに大きな競合2社が同時に進出してきたのです。私は根拠もないのに、「先手必勝」で何とかなるだろうと信じ、それから1年半は休まず必死に働きました。

青木仁志
青木

競合参入の影響で、売上げは減りましたか。

金子和斗志氏
金子氏

実はそれほど響きませんでした。地域の皆様、そしてスタッフに支えられたのだと思います。
もう1つは、平成5年に起こしてしまった食中毒事件です。その時、私は中国の視察旅行で不在だったのですが、すぐさま帰国。その翌朝には、地元のテレビや新聞で大々的に報じられていました。すぐに被害者の方と連絡をとり、その婚礼に出席されていた350名のお客様全員にお詫び状を出し、具合が悪くなられた方や新郎新婦様、御両親様に謝罪に伺いました。その他の婚礼の予約をいただいていた125組のお客様にも、営業担当者が説明に回りました。すると幸いにも、1件もキャンセルは出なかったのです。私も断られることを覚悟してお客様のもとに伺うと、先方は「もう2度と同じ事件は起こさないだろうから、お宅に予約します」とおっしゃってくださいました。
そうした信頼に応えるために、厨房の構造をすべて見直しました。隣に3階建ての厨房ビルを建て、食器洗浄・刺身の調理場・盛り付け場所・倉庫などをすべて分けて、衛生管理を徹底させたのです。この時の苦い経験が、後のISO22000認証取得(福岡支店)に繋がったと考えています。

青木仁志
青木

ピンチをチャンスに変えて繁栄につなげるところが、金子流経営法ですね。

金子和斗志氏

金子和斗志氏
金子氏

二度と起こさないという覚悟で、スタッフが奮起してくれたのです。こうした数々の失敗を通じて感じたのが、ステップアップする時には、何らかの歪みが生じる、ということです。そこで無理をすると、必ず弊害が起こります。
たとえば、最初の伊万里グランドホテルのキャパシティーでは、1日4組の結婚式が最大だったのですが、平成3年に建てた伊万里迎賓館では、1日に最大14組が挙式できるようになりました。それだけ一気に拡大すると、さすがに現場は大混乱に陥り、夜のお客様に料理がほとんど出ていない、なんてことも起こったのです。企業が大きくなっていく時には、無理をしてはいけません。同じことをやり続けるだけでは進歩はありませんが、今までやってきたことの延長で、1つか2つ新しいことを行いながら、3カ月から半年後に自分の想定する完全な状態に持っていく。それだけの期間をとれば、スタッフが施設に慣れ、使い勝手もわかってきます。そういうプロセスを踏むことが大切だとわかりましたね。

青木仁志
青木

経営には正解はありませんが、試行錯誤しながら、正解に近づいていく道のりなのだと、つくづくと感じますね。松下幸之助氏も「適正経営」という言葉で、「器を大きくしながらも、自分の器に合った経営をすることが大事だ」とおっしゃっていますが、金子社長はまさにそれを実践されていらっしゃるのですね。
最後になりますが、これまでを振り返って、東証一部上場の企業体にまで自社を育て上げられた最大の理由はどこにあるとお考えですか。

金子和斗志氏
金子氏

理由は4つあると考えています。1つ目は、理念経営の実践です。理念に共感している人財と共に、その実現に向けて努力する。理念実現を目指して現場で努力する人財が会社の発展を支えるのです。2つ目は、向上心のある人財を採用・育成する。国籍・性別・年齢及び経験に関係なく、能力が発揮できるよう適材適所で抜擢します。特に大事なのが、抜擢した人財に権限も渡すことです。たとえば、ウェディング事業では料理が非常に重要なのですが、社長の私は試食をしませんし、口出しも一切しません。決定権は、お客様に一番感覚の近い20~30代の女性スタッフにあり、ベテラン・シェフもそれに従います。3つ目は、ビジネスモデルとの出会いです。私はゲストハウス・ウェディングと出会い、これを日本で推し進めながら、海外にも進出していきたいと思っています。そして最後が、運です。この4つなくして、東証一部上場は果たせなかったと思います。

青木仁志
青木

運とは、どういうものだと思いますか。

金子和斗志氏
金子氏

私は、運とは、自分が大事だと思うことに対して、1に努力、2に努力、3、4がなくて、5に努力することで手にすることができるものだと考えています。そして努力する中で、人とのご縁をいかにつくるか。人と人とのつながりが、経営やビジネスのつながりになっていくので、人とのご縁は特に大事だと考えています。
剣術で有名な柳生家の家訓に「小才は縁に出会って縁に気づかず。中才は縁に気づいて縁を生かさず。大才は袖すり合った縁をも生かす」とあります。つまり、出会った人はみな大事にすべきだということです。どんな方に対しても「誠実、信用、信頼」でお付き合いをしていかなければなりません。<

青木仁志
青木

お話を伺ってきて、金子社長は「誠実、信用、信頼」という生き方をまさに実践されていらっしゃるのだと感じました。大小を問わず企業経営者にとって、大切にしなくてはならない人としてのあり方について、示唆に富むお話をいただきました。本日はありがとうございました。

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